甘辛問答無味感想vol25 | 旅するように和菓子と出逢う(旅わが)

新茶と草餅と草枕

甘辛問答無味感想vol252024.05.07

甘辛問答無味感想vol25

いつの間にか、桜の花が散ってしまいました。

気が付くと、世の中は新緑の季節に。

町の中に住んでいても、

街路樹や公園の木々の緑が目に鮮やかです。

日本で、森林が国土に占める割合は

7割近いそうです。

世界の平均が3割くらいなので、

これはかなり高い割合です。

実際、日本ではどこに居ても、

たとえ東京のど真ん中に居ても、

見渡せば必ず森や山の緑が目に入ります。

景色だけではありません。

食卓には新鮮な緑色野菜が、

お茶屋さんには澄んだ黄緑色の新茶が、

そして、和菓子屋さんには

鶯餅や草餅が並びます。

日本の初夏は、

文字通りいろんなみどり色に溢れていますね。



「日本の伝統色」という、

大日本インキが制作した色見本帳があります。

それを見ると、

青柳(あおやぎ)、山葵色(わさびいろ)、

柚葉色(ゆずはいろ)など、

みどり系の色名だけで40種くらいあります。

昔ながらの風流な色名が今でも残っています。

例えば「もえぎ色」ってよく聞きますよね。

実は、萌葱、萌黄、萌木と漢字表記が3種類あり、

それぞれ色調が異なります。



ちょっと専門的ですが、

カラー印刷の基準となる

プロセス4色で表記すると、

以下のようになります。

◎萌葱:C80+M0+Y65+K50

◎萌黄:C50+M0+Y100+K10

◎萌木:C40+M0+Y100+K15

Cは青、Mは赤、Yは黄、Kは黒を表し、

数字はその割合です。

Kの割合が多いと暗くくすんだ色になります。

萌葱は深緑色、萌黄と萌木は黄緑色なので、

同じもえぎ色でもずいぶんと違いがありますね。

この微妙な違いに、ぴったりな漢字を当てはめて

使い分けるところが、

日本的な色彩感覚の豊かさですね。



新緑の季節にふさわしい色としては、

若菜色、若葉色、若草色、若芽色などがあります。

いずれもK(黒)の割合が低い、

爽やかで柔らかな色合いです。

若いって、やっぱり、

くすんでないということなのか。

5月になれば、これらの若々しい緑色が

山や森、そして町に溢れます。

老化が著しい私でも、少しはくすみがとれるかも。

ということで、

緑の中を真っ赤なポルシェに乗って

(真っ赤な嘘です、実は白いミニ)、

新緑の京都に行ってきました。

人気の観光スポットを避けて、

比叡山の麓にある蓮華(れんげ)寺という

閑静なお寺を訪ねました。

紅葉の季節は多くの人で賑わうそうですが、

雨が降っていたせいか、

ひっそりとしていました。

寺院に入り、薄暗い廊下から

庭に面した座敷へ入った瞬間、

雨に濡れて、より艶やかさを増した

新緑のもみじに目を奪われました。

柱と庇によって

額縁のように切り取られているので、

まるで巨大な絵画のようです。

あまりの美しさに、しばらくその座敷に座って、

呆けたように見とれていました。

座敷の戸がすべて開け放たれているので、

涼しい風が通り抜け、

軒から落ちる雨音が聞こえます。

やがて、からだ全体が寺の気配に包み込まれ、

気持ちがすっと鎮まるのを感じました。



ふと、夏目漱石の「草枕」の

冒頭が浮かんできました。

「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。

 知に働けば角が立つ。

 情に棹させば流される。

 意地を通せば窮屈だ。

 とかくに人の世は住みにくい。

 住みにくさが高じると、

 安いところへ引き越したくなる。

 どこへ越しても住みにくいと悟った時、

 詩が生まれて、画ができる」



この冒頭が大好きで、何度も読み返しているので、

ここだけ憶えてしまいました。

人生において文学や芸術の存在する意味が、

わずか数行で、するりと腹に落ちてくる名文です。

時代は、どんどんと

「知に働く」しかない方向に進んでいるので、

今こそ、より共感できます。



ただ、「旅わが」メンバーとしては、

ここは、詩とか画とかではなくて、

「お茶が生まれて、和菓子ができる」、

とつなげたいところです。

今まさに新茶の季節、

摘み立てのお茶と搗き立ての草餅なんて、

最高の癒しだと思うのですが、

「わが猫(吾輩は猫である)」さんは、

どうお考えでしょうかね?

甘辛問答無味感想とは