甘辛問答無味感想vol.23 | 旅するように和菓子と出逢う(旅わが)

四月になれば彼女は

甘辛問答無味感想vol.232024.03.04

甘辛問答無味感想vol.23

三月になると、桜が気になりはじめます。


今年の花はいつ頃咲くのだろうか、と。

そんな時、頭の中にふと浮かんでくる歌が…。

April come she will…





サイモン&ガーファンクル(S&G)の

名曲「四月になれば彼女は」、


これはその冒頭の一節です。


年寄りのくせに、柄にもなくラブソングですか。


1960年代の古い曲だから、

その頃は若かったんですけどね。


川村元気さん原作の同名の小説が

映画化されて話題です。


この機会に、この美しい曲も

リバイバルヒットしたら、うれしいなあ。





S&Gは、1960年代に


ビートルズやボブ・ディランと

並ぶくらいの人気でした。


美しいメロディとこの二人のハーモニーが


なんとも心地よいのですが、


ポール・サイモンの文学的な歌詞、


これがまたよかった。


読めば読むほど(英語が聴き取れないので…)、


意味が深まり、

どんどんイメージが膨らんでいきます。


彼らの代表曲は

「サウンド・オブ・サイレンス」ですが、


音のない音?

この禅問答のような不思議なタイトルは


芭蕉の句を連想させるほどにイメージ豊かです。


「四月になれば彼女は」も

わずか2分に満たない小品なのに、


まるで小説のように

ドキドキする歌になっています。





四月に彼女と出会い、恋に落ちるが、


夏の終わりに彼女は去ってしまう。


そのことを、秋になって思い出している。


まあ、そんなシンプルな歌なのですが、


原詞では、月名(MayとかJulyとか)と


韻を踏む言葉(stay、fly)でもって、


彼女の心変わりを詩的に描いています。


最後のパラグラフで、


この恋が9月(september)には


もう思い出(remember)に


なっていることが明かされます。


なんだか胸に刺さるような展開です。


ちゃんと聴きたい方は、

ネットで検索してみてください。





さて、去って行った彼女の行方も気になりますが、


4月になれば日本では、

桜の花が一斉に咲き始めます。


満開の桜の花は本当に美しいです。


その美しさがもっと

続けばいいのにと思うのですが、


そんな気持ちを知ってか知らずか、


アッという間に花は散ってしまいます。


こういうところ、

「四月になれば…」の彼女に

ちょっと似ているような。





花が散った桜は青々とした若葉を繁らせて、


爽やかさを周囲に振りまきます。


日差しの強い真夏には木陰をつくり、


私たちに一息つかせる場を提供してくれます。


夏が過ぎて秋になれば、今度は紅く染まり、


シャンソンでも似合いそうな

シックな雰囲気をまといます。





桜というと花ばかりが印象に残りますが、


こうして見ると、一年を通して変化し続けて


それぞれの季節を飾り立て、


日々の暮らしを

豊かにしてくれていることがわかります。


桜は移り気かもしれないけど、いつもそこに居てくれます。


気づかないのはこっちの方だったかもしれない。





桜は伐り倒されてからも、


私たちの暮らしを彩ってくれています。


木材として家具や工芸品に使われ、


桜の樹皮は茶筒やお盆の装飾になって、


ここでもやはり、いつまでもそこにあり続けます。





四月になったら、


桜の葉を巻いた桜餅を桜皮のお皿にのせて、


桜茶をいただくなんて、

なかなか風流ではないですか。


思わず詩心が動いて、

ここで一句と行きたくなるところです。

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