甘辛問答無味感想vol.22 | 旅するように和菓子と出逢う(旅わが)

パーフェクトな日々、2月

甘辛問答無味感想vol.222024.02.05

甘辛問答無味感想vol.22


2月は寒い、一年で一番寒い、

そんな印象があります。

本当にそうなのか?

正確を期すため、

年間の気温推移を見てみました。

1月半ばから2月にかけてが

一番寒いことが分かりました。

ちょうど立春の頃から気温が上向きになります。

「こんなに寒いのに、立春とはどういうことなん?」

毎年毒づいていましたが、

暦って上手くできています。




そんな厳寒の中、

梅の木がちらりほらりと花を咲かせます。

どの花よりも早く咲くから

「百花の魁(さきがけ)」なんて呼ばれます。

厳しい修行に明け暮れる禅僧たちは、

真冬に咲く梅を見て

「悟りの花」の美しさを想うのだとか。

寒さが苦手な私にも、

その気持ち分かります(ホントか?)。




立春の頃になると、

梅のお菓子が店頭を賑わせます。

梅の花をモチーフにしたり、

梅の実を丸ごと包んだり、

春を待ちわびる私には、

百花繚乱の楽しさです。




一方で、今回注目して欲しいのが、

梅の木そのものの姿かたちです。

梅の木はよく見ると、

一本一本がとても個性的です。

木の表面、つまり樹皮は桜と比べると

ごつごつしています。

老木ともなると、

樹皮が剥がれて樹木の軸は空洞になり、

水平に広がった枝が、まるでダリの絵みたいに

棒で支えられたりしています。

枝は、永年の風雪に晒されて、

曲がりくねり節くれだっています。

しかし、それでも春先には可憐な花を咲かせます。

そのコントラストが梅らしさであり、

禅僧たちが「悟りの花」と

見立てる理由なのかもしれません。

「老梅」と名づけられた和菓子があります。

お菓子というと、

かわいさばかりに目が向いてしまいますが、

和菓子職人は、時の試練を乗り越えた

老成の魅力も見逃しません。

さすがです。




「パーフェクトデイズ」という映画が話題です。

今年のアカデミー賞にノミネートされています。

直訳すると「完璧なる日々」というタイトルだから、

どんなにすてきな暮らしかと思ったら、

役所広司さん演じる平山という男は、

朝起きて、仕事をして、

ご飯を食べて、本を読んで、そして寝る。

それを毎日几帳面に繰り返す、

ただそれだけの日々です。

木造2階建ての古いアパートに住み、

テレビもなく、スマホも持たず、

古本と60年代ロック(選曲が渋い)の

カセットテープに囲まれて暮らしています。

そんな平山は樹木が大好きです。

部屋で苗木を育て、

いつも通っている公園で木の写真を撮ります。

その木の下に、いつもひとりの老人がいて、

ゆったりと踊っています。

何者なのでしょう?そんな説明はもちろんありません。

もしかしたら、その姿は平山にしか、

見えないのかもしれません。





小気味いいセリフの応酬、

燃えるようなラブシーン、

思わず膝を打つような伏線回収、

アッと驚くどんでん返し、

そのようなものは、この映画にはありません。

ただただ、静かに映画内時間が過ぎていきます。

しかし、決して退屈ではありません。

このままずっと映画が続けばいいのに、

そう思えるほど、心地よさに満ちています。

不思議な映画です。





役所広司さん67歳、

踊る老人を演じる田中泯さん78歳。

この二人の佇まいを思い返すとき、

そこに、禅僧と

梅の老木のイメージが重なりました。

若い時は、桜のような華やかなさに惹かれますが、

年齢とともに、普段や普通がいとおしくなります。

それがつまりパーフェクトな日々、

そういうことなんですかね?平山さん。




今年のバレンタインデー。

濃厚なチョコレートは恋する人たちにお任せして、

身近な人と和菓子を分け合うのがよさそうだと、

役所広司さんと同じ昭和31年生まれの私は、

考えています。

甘辛問答無味感想とは