甘辛問答無味感想vol.14 | 名作文学の陰に和菓子あり。

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甘辛問答無味感想vol.142023.03.09

甘辛問答無味感想vol.14

文豪は甘いものが好きらしい。

森鴎外は、四つに割った饅頭を

ご飯に載せて、煎茶でお茶づけにして

食べるのが好物だったとか。


芥川龍之介は、関東大震災で

おしるこ屋が減ってしまったことを


随筆の中で嘆いています。


「震災以来の東京は梅園や松村以外には

しるこ屋らしいしるこ屋は跡を絶ってしまつた。

その代わりにどこもカッフエだらけである。

(中略)


これは僕等下戸(げこ)仲間のためには

少なからぬ損失である」と。





人間の脳は、体重の2%くらいの重さですが、

1日の消費エネルギーの

20%を使っているそうです。


脳はブドウ糖しか吸収しないので、

脳の活性化に糖分は不可欠です。


海外の研究ですが、60~80歳の高齢者に

合成甘味料とブドウ糖を別々に与えて、


文章作成能力と読解力を比べたところ、


ブドウ糖を与えられたグループは

この2つの能力が明らかに高まったそうです。


一方で砂糖の取り過ぎは問題だ、

という学説をよく見かけます。


砂糖は、一気に血糖値を上げるため

脳が疲労しやすく、


習慣性が強いことも問題視されています。






え、じゃあ、和菓子もほどほどにすべきなの?


そんな声が聞こえてきそうですが、


和菓子派の皆さん、ご安心あれ。


あんこの原料である小豆には

赤ワイン以上のポリフェノールが含まれていて、


その働きで糖分の吸収速度が

抑制されることが分かっています。


その上、小豆あんには、

健康維持に有効な栄養素が豊富です。


どうやら、同じ糖分でも種類や取り方によって、

脳や体への影響が異なるようです。


脳の働きを高めるために糖分を取るなら、


米、豆、乾燥果実、木の実などが

おすすめなんだって。


おや、これってすべて

和菓子の材料ではないですか。





長い年月にわたって

和菓子が愛されてきたのには、

おいしさだけではない

科学的な理由があったということで、

ますます和菓子好きが嵩じそうです。


そして、名作を次から次へと生み出した

文豪たちが饅頭やおしるこ好きだった

というのも納得です。





芥川龍之介は、先に引用した随筆の中で、


欧米人はおしるこの味を知らないが、

もしそれを知ってしまったら、


おしるこは世界を風靡(ふうび)するかもしれない、

と書いています。


そして、おしるこの虜(とりこ)になった

ニューヨークの人たちが、


「一椀のしるこを啜りながら、

チャーリー・チャプリンの

離婚問題か何なんかを話している光景を

想像している」と、締めくくっています。


今、和菓子が海外で

人気であることを知ったら、

きっと鼻高々でしょうね。





しかし、残念ながら芥川龍之介は、

この随筆を執筆してわずか2か月後、


自殺してしまいます。


おしるこ屋さんが

激減したせいなのかもしれません。


おしるこ業界が健在だったら、

彼の創作意欲と生きる力を刺激して、


もっと芥川作品を読めたかもしれない

と思うのは、考えが甘いでしょうか?

甘辛問答無味感想とは