甘辛問答無味感想 vol.33 ずっと、あんパンが好き

ずっと、あんパンが好き

甘辛問答無味感想 vol.332025.08.18

甘辛問答無味感想 vol.33

朝ドラ「あんぱん」を見ています。

やなせたかしさんの大ファン、

というわけではないのですが。

しかし、物心ついた頃から、

やなせさんはとても身近な存在でした。

子どもの頃に読んでいた絵本や学習雑誌に、

やなせさんの絵がいつも載っていました。

やなせさんの詩も読んだし、歌も歌ったし、

似顔絵のついたサインも好きでした。

やなせさんの絵を通じて、

いろんなことを学んだ気がします。

やなせさんは、

私の知的興味の原点なのかもしれないなあ。







「アンパンマン」が、テレビで始まったのは

1988年、バブルの絶頂期でした。

日本がいずれ世界の頂点に立つと

錯覚していた時代でしたね。

多くの日本人が、私も含めてなんだか強気でした。

そんな時代に、アンパンマンはあえて

「弱いヒーロー」として登場しました。

当時、30歳を超えて、

公私共に多忙だった私にとって、

やなせたかしさんは、その時点では既に、

過去の人でした。

年齢的にも、

アンパンマンに関心を持つはずもなく、

そこはあっさり素通りしてました。







ただ、ひとつだけ

心に引っかかっていたことがありました。

アンパンマンが、お腹を空かせた人に、

自分の顔を食べさせていたことです。

顔を食べられると、アンパンマンは力が弱ります。

食べられた顔は、

ジャムおじさんが再生してくれるわけですが、

自分の顔を食べさせるなんて、

私の感覚ではちょっと、不気味に感じました。

やなせさんは、

顔を齧られたアンパンマンをちゃんと描きます。

柔らかな漫画タッチですが、

ここだけ妙にリアルです。

「あんパン」なのだから食べられても平気なはず。

でも擬人化されているが故の

違和感がありました。

何も顔を食べさせなくても、

手に持ったあんパンを食べさせる、

というような設定でよかったのでは?

しかし、そんな私の違和感を超えて、

アンパンマンは

幼い子どもたちに絶大な人気を博します。







それから、30年以上経過しました。

仕事を引退した私は、

妻につきあって朝ドラを見られる身分になりました。

朝ドラに触発されて私は、

すぐれたノンフィクションを発表し続けている、

梯(かけはし)久美子さんの

「やなせたかしの生涯」を読みました。

その中に、

アンパンマンが顔を食べさせる理由についての、

やなせさんの言葉が紹介されていました。

「正義を行おうとすれば、

自分も深く傷つくものだ。

でも、そういう捨て身、献身の心なくして、

正義は決して行えない」

顔を食べさせる設定に、

やなせさんの、正義に対する信念が

込められていたことを知りました。

やなせさんは、敗戦によって、

正義の意味が逆転した時代を体験しているから、

ヒーローに、軽々しく正義を行わせることに

抵抗があったようです。

顔を食べさせる設定は、

当時の関係者にも評判が悪かったと、

この本で明かされていますが、

やなせさんは、顔を食べさせることに、

こだわりを持っていたのです。

子ども向けだからと言って、

当たり障りのない表現を選ばず、

あえて心をざわつかせる設定にした。

そして、幼い子どもたちは、

それを素直に受け止めたのでした。







大人に理解できないことでも、

先入観も固定観念もない幼児は、

素直に受け入れてくれます。

もしかすると、

お腹が空いたから顔を食べるという発想は、

幼児にとっては、当たり前のことかもしれません。

なぜなら、ちょっと前まで、多くの子どもたちは、

母親のおっぱいを吸っていたから。

アンパンマンの顔って、おっぱいに似てますもんね。

母親の無償の愛の象徴のようでもありますね。







それと関係があるかどうか知りませんが、

私は、小さい時からあんパンが大好きでした。

おしゃれなクリームパンやメロンパンもいいけど、

あんこが何より好きな私にとって、

つぶあんが詰まったあんパンに

勝るものは、ありません。

丸くてふんわりしたあんパンにかぶりつくと、

幸せな気分になります。

あんパンは、目立たないけどずっとそこにあり続ける、

その安心感が、またいいですね。

幼い日に、いつも

やなせたかしさんの絵があったように。







アンパンマンが大ヒットしたのは、

やなせさんが69歳のときでした。

それからさらに大活躍をされています。

実はわたくし、今年で69歳なんです。

本の表紙で笑っているやなせさんが、

そんなに落ち着いてて、どうするの?

そう言っているように見えてきました。