ずっと、あんパンが好き
甘辛問答無味感想 vol.332025.08.18
朝ドラ「あんぱん」を見ています。
やなせたかしさんの大ファン、
というわけではないのですが。
しかし、物心ついた頃から、
やなせさんはとても身近な存在でした。
子どもの頃に読んでいた絵本や学習雑誌に、
やなせさんの絵がいつも載っていました。
やなせさんの詩も読んだし、歌も歌ったし、
似顔絵のついたサインも好きでした。
やなせさんの絵を通じて、
いろんなことを学んだ気がします。
やなせさんは、
私の知的興味の原点なのかもしれないなあ。
◇
「アンパンマン」が、テレビで始まったのは
1988年、バブルの絶頂期でした。
日本がいずれ世界の頂点に立つと
錯覚していた時代でしたね。
多くの日本人が、私も含めてなんだか強気でした。
そんな時代に、アンパンマンはあえて
「弱いヒーロー」として登場しました。
当時、30歳を超えて、
公私共に多忙だった私にとって、
やなせたかしさんは、その時点では既に、
過去の人でした。
年齢的にも、
アンパンマンに関心を持つはずもなく、
そこはあっさり素通りしてました。
◇
ただ、ひとつだけ
心に引っかかっていたことがありました。
アンパンマンが、お腹を空かせた人に、
自分の顔を食べさせていたことです。
顔を食べられると、アンパンマンは力が弱ります。
食べられた顔は、
ジャムおじさんが再生してくれるわけですが、
自分の顔を食べさせるなんて、
私の感覚ではちょっと、不気味に感じました。
やなせさんは、
顔を齧られたアンパンマンをちゃんと描きます。
柔らかな漫画タッチですが、
ここだけ妙にリアルです。
「あんパン」なのだから食べられても平気なはず。
でも擬人化されているが故の
違和感がありました。
何も顔を食べさせなくても、
手に持ったあんパンを食べさせる、
というような設定でよかったのでは?
しかし、そんな私の違和感を超えて、
アンパンマンは
幼い子どもたちに絶大な人気を博します。
◇
それから、30年以上経過しました。
仕事を引退した私は、
妻につきあって朝ドラを見られる身分になりました。
朝ドラに触発されて私は、
すぐれたノンフィクションを発表し続けている、
梯(かけはし)久美子さんの
「やなせたかしの生涯」を読みました。
その中に、
アンパンマンが顔を食べさせる理由についての、
やなせさんの言葉が紹介されていました。
「正義を行おうとすれば、
自分も深く傷つくものだ。
でも、そういう捨て身、献身の心なくして、
正義は決して行えない」
顔を食べさせる設定に、
やなせさんの、正義に対する信念が
込められていたことを知りました。
やなせさんは、敗戦によって、
正義の意味が逆転した時代を体験しているから、
ヒーローに、軽々しく正義を行わせることに
抵抗があったようです。
顔を食べさせる設定は、
当時の関係者にも評判が悪かったと、
この本で明かされていますが、
やなせさんは、顔を食べさせることに、
こだわりを持っていたのです。
子ども向けだからと言って、
当たり障りのない表現を選ばず、
あえて心をざわつかせる設定にした。
そして、幼い子どもたちは、
それを素直に受け止めたのでした。
◇
大人に理解できないことでも、
先入観も固定観念もない幼児は、
素直に受け入れてくれます。
もしかすると、
お腹が空いたから顔を食べるという発想は、
幼児にとっては、当たり前のことかもしれません。
なぜなら、ちょっと前まで、多くの子どもたちは、
母親のおっぱいを吸っていたから。
アンパンマンの顔って、おっぱいに似てますもんね。
母親の無償の愛の象徴のようでもありますね。
◇
それと関係があるかどうか知りませんが、
私は、小さい時からあんパンが大好きでした。
おしゃれなクリームパンやメロンパンもいいけど、
あんこが何より好きな私にとって、
つぶあんが詰まったあんパンに
勝るものは、ありません。
丸くてふんわりしたあんパンにかぶりつくと、
幸せな気分になります。
あんパンは、目立たないけどずっとそこにあり続ける、
その安心感が、またいいですね。
幼い日に、いつも
やなせたかしさんの絵があったように。
◇
アンパンマンが大ヒットしたのは、
やなせさんが69歳のときでした。
それからさらに大活躍をされています。
実はわたくし、今年で69歳なんです。
本の表紙で笑っているやなせさんが、
そんなに落ち着いてて、どうするの?
そう言っているように見えてきました。

