甘辛問答無味感想vol.27 | 旅するように和菓子と出逢う(旅わが)

渋いのがお好き?

甘辛問答無味感想vol.272024.09.04

甘辛問答無味感想vol.27

先日、昔の写真を整理していたら、

1枚の写真に目が止まりました。

30歳の誕生日の時に撮った写真です。

写真にマジックで

「30歳シブミ」と書かれていました。





シブミ?渋み?

写真の中の私は、

変顔して両手でピースサインしています。

とてもじゃないけど「渋み」とは縁遠い姿です。

なぜ、シブミなんて書いたのだろう?





当時(1980年代半ば)、「シブミ」というタイトルの

海外ミステリーがベストセラーになっていて、

それに感銘を受けたからです。

シブミとは渋みのことで、

原題もそのままSHIBUMIです。

「雄弁なる沈黙、

はにかみを伴わない慎み深さ」と、

小説の中で説明されています。

英語には、苦みを表す言葉はあるのに、

渋みにピッタリな言葉はないらしくて、

「shibumi」はそのまま、

洗練された日本的美意識を表す言葉として、

オックスフォード英語辞典に載っているそうです。

「侘び」「寂び」、そして「渋み」が、

日本文化のキーワードとして認定されたのです。





この時代、日本ではちびまる子ちゃんの主題歌

「踊るぽんぽこりん」が大ヒットしていました。

国全体が文字通り踊り狂っていました。

その渦中にいた私から見て、

当時の日本に渋みなど、

かけらもなかったと思います。

しかし、当時の欧米人は

日本の急成長の秘密を読み解こうと必死で、

日本のカルチャーの理解が急速に進みました。

寿司、禅、侍のような伝統的なものから、

三宅一生、山本耀司、

YMOのような先鋭的なものまで。

無駄のないクールな見た目の裏側に潜む、

神秘的で本質を衝く深淵さ。

その感覚に、彼らにとっては未知の概念、

「シブミ」がうまくはまったようです。





渋いという感覚は、英語では、

苦いbitterという言葉に包含されますが、

私たちからすると、

渋いと苦いとは異なる感覚ですよね。

科学的にも、渋いと苦いは

根本的に違う感覚だそうです。

苦味は舌で感じる味覚ですが、

渋みは皮膚や粘膜で感じる触覚なのだとか。

渋み成分が口の粘膜の潤いを奪うことで、

口の中がしびれる感じ、それが渋いです。

苦みを楽しむ嗜好は世界共通ですが、

日本ではそれをさらに分化して

渋みという新感覚を創り出しました。

コーヒーは苦くて、お茶は渋い。

この微妙な違いを表す言葉がある。

文化って言葉ですね。





渋みと苦みを考える上で面白いのは、

このどちらも、

動物に食べられにくくするためのものなのに、

人間は、お茶、コーヒー、ビールが大好き、

ということです。

動物であれば嫌うに違いない、

苦みと渋みをあえて楽しむ。

これが人間の食文化の妙味ですね。

子どもの時にまずいと思ったものが、

大人になったら大好きになる。

今は嫌いなもの、興味のないものが

ある日、好きになる。

大切なのは好奇心とチャレンジ精神のようです。

甘辛問答無味感想とは