甘辛問答無味感想vol.26 | 旅するように和菓子と出逢う(旅わが)

そして、父になる

甘辛問答無味感想vol.262024.06.07

甘辛問答無味感想vol.26

いちご大福をはじめて見たのは

いつ頃だったろう?

1980年代終わり頃だったでしょうか。

和菓子に生のフルーツという

ハイブリッド感がまず新鮮でした。

当時、異種のものを組み合わせる

ハイブリッドという言葉が流行していました。

異なる品種のいいとこ取りをした

ハイブリッド米とか、

電気とガソリンを組み合わせた

ハイブリッド車とか。

しかし、それ以上に驚いたのは、

大福の中にいちごを丸ごと入れた大胆さです。

つぶしたり、刻んだりせずに

そのまま入れてしまった。

見た目は平凡な大福なのに、

ひと口かじれば、

いちごの果汁と香りが口中に広がり、

餅と餡との、

かつてないマリアージュが醸し出されます。

白い大福の中に真っ赤ないちごが

燦然と輝くビジュアルも新鮮でした。

あまりにシンプルな着想だったので、

なんで今までなかったのだろう?

と思ったくらいです。





ところで、いちごは

初夏の季語だとご存じでしたか?

最近のいちごはハウス栽培が主流なので、

12月くらいから見かけますが、

本来のいちご(露地栽培)の盛りは

5月から6月頃だそうです。

私の記憶でも、昭和40年頃まで、

いちごは春から夏にかけて食べていました。


「もりあげて やまいうれしき いちご哉」


これは正岡子規の俳句です。

子規は、明治28年5月に喀血して

神戸の病院に入院していたことがあります。

その時、衰弱して

まともな食事ができなかったのですが、

7月に退院するまで、くだもの大好きな子規は、

いちごを毎日食べていたと自ら記しています。

この句はその時に詠んだもののようです。

いちごが初夏のものであったことを

裏付けています。


「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」


これは子規のもっとも有名な俳句ですね。

とにかく食べることが大好きだったみたいで、

随筆を読むとやたらに

食べ物のことが書かれています。

子規は34歳で亡くなっていますが、

亡くなる直前に書かれた

「仰臥漫録(ぎょうがまんろく)」も、

食べたものと便通に関しての

赤裸々な記録が続いています。

起き上がれないので、天井から吊るした紙に

仰向けになって書いたそうです。

相当辛かったと想像されますが、

最後まで食べ物への執着は途切れることがなく、

その姿に私たちの方が勇気づけられます。





さて、露地栽培から

ハウス栽培に移行したいちごは、

その後も品種改良が飛躍的に進み、

今では多種多様ないちごが

店頭に並ぶようになりました。

農水省のサイトによれば、

その品種は300種類もあって、

その半分以上が日本で誕生したものだそうです。





清少納言は

「小さきものは みなうつくし」と書いています。

小さくて色鮮やかないちごは

日本人好みなのでしょうね。

平安時代にいちごがあったら、

清少納言は

めっちゃ舞い上がったに違いないです。

しかし、最近はこぶしほどもある巨大いちごや

白いいちごまで登場して、

季節感だけでなく、

いちごのイメージは大きく変わりました。





6月には父の日がありますが、

父のイメージも大きく変化しましたね。

戦前は、それこそ一家の大黒柱として、

食卓の真ん中にでんと構えていました。

食卓は父親を中心に席が決まっていて、

父親が箸をつけないと

家族も食べられなかったり、

おかずも一品多かったり、

気に入らないことがあった時は

ちゃぶ台をひっくり返す権利があったり。

やがて昭和が終わり、平成を経て令和に。

最近、ちゃぶ台ひっくり返した方

いらっしゃいます?

母のイメージはずっと変わらない気がしますが、

父のイメージは時代と共に

変化し続けているように思います。





「そして父になる」(2013年)という

映画がありましたが、

ここでは、理想的な

父親であったつもりの福山雅治さんが、

子どもの取り違え事件をきっかけに、

新しい父親像を模索する姿が描かれていました。

父である前に、夫でありひとりの人間である

という複合的な存在に気づく展開の中で、

「そして父になる」というテーマが

リアルに浮かび上がってくる名作でしたね。

家の中で少し窮屈そうにしているお父さんも、

自分がどうあるべきかと、

心の中では結構葛藤しているのだと、

一応父である私はフォローしておきます。





今年は父の日と和菓子の日が同じ日です。

新しい父親像への謎かけとして、

ハイブリッド和菓子は

案外いけるかもしれません。

甘辛問答無味感想とは